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オビーディエンス・トレーニングの必要性 米国の、少なくとも幸が住んでいる地方では、外に繋がれた状態で飼われている犬というのは、見たことがありません。ペット・ドアが設置してあり、室内と戸外の出入りが自由な犬はいますが、そういうお宅でも、夜間は犬の行動を規制していると思います。あるいは、エレクトリック・フェンスなどを用いて、戸外に出ても庭の中だけという家庭も多いでしょう。 この地方で、家の中に入れてもらえない犬がほとんどいないという理由としては、三つほど考えられます。まず一つにはアメリカの住宅事情が挙げられるでしょう。日本のように畳の部屋がなく、人によって違うと思いますが、人間も靴のまま室内で生活する習慣があるため、犬が外を歩いた足のまま家の中に入っても、さほど気にならないのではないでしょうか。もう一つには、冬の気候がかなり厳しいので、少なくとも冬は犬を外に出したまま飼うことは不可能だということ。三つ目として、これが一番重要だと思いますが、私が知っている範囲のアメリカ人の考え方として、犬はコンパニオン・アニマルで家族の一員ですから、家の中で人間と一緒に生活するのは当り前だというためです。 犬が家族の一員なら、こちらも犬を家族の一員として扱うかわりに、犬の方にもそれなりのルールを守ってもらわなければなりません。私も犬を飼うと決めた時に、その犬と家の中のスペースを共有して10年以上も生活を共にすることになるわけだから、お互いが気持ちよく暮すために最低の躾はしなければならないと思いました。しかし、家の中のスペースを共有するからと言うのは理由の一つに過ぎずません。犬は家の中ばかりにはいられませんから、外に出たときに他人に迷惑をかけない犬にしなければならないということも、もちろん考えました。この「外に出たとき」というのは、ただ単に散歩に行ったときだけには限りません。獣医の所に診察に行ったとき、ケンネルに預けて他の人に面倒をみてもらうときなど、いろいろな場面が想定できます。犬が遭遇するであろうそのようないろいろな場面において、最低の躾ができていることは必須だと思います。 具体的にどのような方法でどのような躾をするのがいいのかについては、参考になりそうな本をいろいろ読んでみました。手に入りやすいということと、種類が多いと言う理由で、読んだのはアメリカで出版されたものがほどんどでしたが、そのような本の一冊にとても印象に残った言葉がありました。出典を忘れたので引用できませんが、だいたいこのような感じです。「最初からすばらしい犬というのは存在しない。いい犬になるかどうかはあなた次第」。犬が生まれながらにして持っている性格や資質というものはあるかもしれませんが、ルールという観点からすると、何がよくて何が悪いかは教えなければ犬もわかるはずがありません。厳しい言葉ですが、やはり「あなた次第」というのはある程度事実なのでしょう。 犬の躾についてのいろいろな本を読んでみると、やはりキーポイントがあるようです。そのお宅によって違ういろいろなルールももちろんありますが、基本的に犬が飼い主の言うことを聞くか聞かないかは、どうやら「パック」という考え方を理解することにかかっているようです。 犬は「パック・アニマル」と呼ばれ、自然界では狼と同じように集団で行動する動物です。その集団の中にはもちろん力の強さの順位があり、一番強いものがパック・リーダーになるわけです。犬は常に自分の順位がどの辺か意識していて、その順位が時によっては変わることもあります。犬も個体差があり、パックの順位の上の方になりたがる野心が旺盛な犬もいれば「私は下の方で構わないの」というおっとりタイプもいるわけです。野心の強い犬は、自分のすぐ上の順位を常に狙っていて、チャンスがあれば今その順位についている犬に挑戦してその順位を奪ってやろうと思っているわけです。 幸を初めて獣医の所に連れて行ったときに、「この犬はアルファだから、躾は厳しくするように」と言われました。ここで獣医が言う「アルファ」と言うのは「野心が強くパックの上位に行きたがる犬」と言う意味です。いろいろな犬をよく観察しているとわかるのですが、おっとりタイプの犬の場合には自分が下位だというこを自覚していますから、例えば、お腹を見せたりしてへりくだるような態度に出ます。幸は他の犬に会っても絶対にそのようなことはしません。「アルファ」である犬を飼う場合には、おっとりしている犬を飼う以上に「パック」のシステムを把握しなければならないようです。その犬が、自分がパック・リーダーだと思わないような躾をしなければならないと言うことです。 幸は家に来るまでは、幸の両親犬、姉妹4匹、秋田犬一匹、雑種の老犬一匹いうパックの中で生活していました。この犬のパックの頂点にはブリーダーが位置するのですが、4匹の仔犬のグループの中では、幸はもう一匹と常にトップ争いをしていたそうです。そのようなパックの中で暮していた幸は、家に来たときに自分の順位が不明確になったことに気が付いたのでしょう。自分の地位確立のために、すぐに私にチャレンジしてきました。そのような兆候が家に来てすぐ現れたので、こちらも早速作戦開始です。 私がパック・リーダーだと理解させることをいろいろしましたが、それは次の項で説明します。その大切なことを把握させると同時に、基本的なオビーディエンス・トレーニングは、幸が家に来た次の日から始めました。
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