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クリッカー・トレーニングとは
2003.03.14

クリッカー・トレーニングは、オペラント条件付け(自発的行動を報酬によって強化する条件付け)を用いたトレーニング法です。これは元々、力を用いずにイルカを調教する手段として、当時ハワイの海洋大水族館のイルカの調教師だったKaren Pryor(カレン・プライヤー)が中心となり考案され、1960年代から使われていたトレーニング法です。このトレーニング法が確立してくるとともに、イルカだけでなく、他の海洋生物にも応用できる事が証明されました。現在ではさらに応用範囲が広がり、コンパニオン・アニマルとしての犬はもちろんのこと、警察犬のトレーニング、馬、猫、鳥、動物園の猛獣に至るまで、このクリッカー・トレーニングが使われています。

従来のトレーニング法では、例えば犬に何かするように言い、犬ができれば誉めますが、できなければコレクションをする、ということが行われていました。例えば、犬にヒール・ポジションで歩くように言ったのに、犬が前に出てしまった場合には、リードやチョークを引っ張るなどして引き戻し、「ちょっとそれ、違っていますよ。こうするんです」と、コレクションを行うわけです。

クリッカー・トレーニングでは、犬が自主的に行った行動でハンドラーが気に入ったものを、クリッカーを使って「はい、そこです。それが私が期待していることなのです」とマークすることにより、犬がその行動を繰り返すようになります。例えば、仔犬に「座れ」を教えたい場合には、犬の自然な行動を観察していて、おしりが床につきそうになったその瞬間にクリックして誉めることにより、犬は段々「こうすると、いいことがある」と分かって来る訳です。犬が、こちらが期待していることと違うことをした場合に、コレクションをする必要はありません。その代わり、こちらも、犬がこちらが期待していることをしない限り、クリッカーを鳴らさないわけです。そうすると犬は、こちらが期待していることを探ろうと、いろいろやってみるようになります。最初は偶然を待っているようなものですが、そのうち、どうすればクリッカーが鳴るか、理解できるわけですね。

犬は「座ればクリッカーが鳴って、いいことがある」と分かって来ると、こちらが何も言わなくても自主的に座るようになります。ただ、これでは人間と犬のコミュニケーションが取れているとは言えません。その対策として、犬がどうすればクリッカーが鳴るかだいたい把握してきた頃に、言葉のキューを入れていきます。「座れ」を教えている場合なら、「座れと言われたら座る、そうするといいことがある」というように、最初の段階よりもう一段階高度なことを期待するようにします。

クリッカー・トレーニングの初期の段階で必要なものは、クリッカーとトリート(ご褒美として与える食べ物)です。「クリッカーが鳴ったらいいことがある」というアソシエーションを素早く犬に理解させるためには、食べ物を使うのは効果的です。クリッカーがどういうものか犬が理解できてからは、ご褒美としては食べ物だけでなく、言葉で誉める、おもちゃで遊ぶ、犬を撫でてやる、など、その犬に合ったものを選べばいいと思います。

上手にクリッカー・トレーニングをしているハンドラーと犬を観察してみると、この二者の間にほとんどテンションがないことに気付きます。それは、コレクションがないからです。大きい声を出す必要もないですし、犬に無理矢理何かさせる、ということもしません。ましてや、力づくでこちらの指示に従わせよう、ということは、クリッカー・トレーニングでは起こらないはずです。これは、反対に、もしクリッカー・トレーニングをするなら、こちらもかなり心に余裕を持ってする必要があるということです。クリッカーを使っているのに、大声で矯正する、などがトレーニングの一部になると、犬は段々混乱してくると思います。

しかし、矯正できないトレーニングは効率的ではない、と考える人がいるかもしれません。私もその一人でした。私は元々クリッカーを使ってトレーニングを始めたわけではないので、この点はやはり不便だと思っていました。その対策としては、矯正用のキューを使っています。これは、こちらの期待したことをしたけど、100%ではなかった場合に使います。例えば、オビーディエンス・トレーニングで、何か行動をしてそれを終わるときに、まずハンドラー前にこちらを向いて座り、それから、ハンドラーの右側から後ろを回り、左側に来て同じ方向を向いて座る、あるいはハンドラーの左側で回って同じ方向を向いて座る、「フィニッシュ」をしますが、その位置がずれてしまった場合等、このキューで矯正できます。これは、私と幸の間の取り決めで、「だいたいいいんだけど、もうちょっとかな。できる?」という時に使っているものです。

幸は、基本コマンドは、全てクリッカーを使わない方法で習得しましたが、その時も力を使うコレクションはしていませんでした。それが効果的ではない、ということは、私には明らかだったためです。「怒られるから、言われたようにする」というのは消極的な学習姿勢で、犬の能力を最大限に伸ばせるとは思えないからです。

現在、幸のトレーニングでは、新しいことを教える場合にクリッカーを使っています。私は、クリッカーを使う方法と使わない方法を使う、ハイブリッドなトレーニングをしているので、クリッカーが最高のトレーニング方法であるかどうかは分かりません。しかし、犬に「クリッカーとはなんぞや」ということを理解させておくと、便利なこともあるのは事実です。