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ご褒美と賄賂の違いについて
2003.03.18

クリッカー・トレーニングの初期の段階では、クリック&トリートの順で、ご褒美に食べ物を使うことが多いと思います。食べ物を「ご褒美」に使うのは構わないと思いますが、これを「賄賂」として使うのは、かなりマイナスの効果があると思うため、私は勧めません。

「褒美」は、辞書では以下のように定義されています。「(1)ほめること(2)ほめて与えるもの。賞与。褒賞」(広辞苑)、「ほめたしるしに与える金銭・品物」(岩波国語辞典)。一方「賄賂」は、「(1)不正な意図で他人に金品を贈与すること。また、その金品。まいない。まい。袖の下(2) 職務に関して授受する不法な報酬」(広辞苑)、「職権を利用して特別の便宜を計ってもらうための、不正な贈物。そでの下。まいない」(岩波国語辞典)。つまり「褒美」は、行われた行為に対するもの、「賄賂」は何かを行うにあたって、「これをあげるからしてね」という行為ですね。

キューを出し、犬がそれが出来た時に「よくできたね」と与える食べ物は「ご褒美」ですが、「ここに食べ物があるよ。できたらあげるからやってごらん」というのは「賄賂」です。クリッカー・トレーニングでも、食べ物を手に持って犬を誘導することにより、目的の行動をさせている人を見ますが、これはあまりいい方法だとは思えません。私は、幸のオビーディエンス・トレーニングを始めた当初からそう考えていたので、ご褒美と賄賂をはき違えないように気を付けていました。

先日読んだクリッカー・トレーニング関係の本、Clicking with Your Dog: Step-by-Step in Picturesの著者、Peggy Tillmanも「賄賂は、ご褒美の間違った使用法です。持っている物を見せないと、犬が言う事を聞かないという状態は、賄賂をやっていると言えます」(p. 181)と言っています。そのためには「トリートを犬が見える所で振り回したりしないこと。テーブルに置くとかして、なるべくハンドラーの体から離す事」(同)を勧めています。

幸のクラスで、楽しいアクティビティとして、犬が人間の足の間をすり抜けながら前進する、というのを習った時に、私は「ご褒美」と「賄賂」の実験をしてみました。まず、この連続動作を細かく見てみると、以下のようになっています。

1)犬はハンドラーの左に座る。

2)ハンドラーは、右脚を一歩前に踏み出す。

3)キューで犬はハンドラーの左脚の前を通り、左脚と右脚の間に出来た空間をすり抜け、ハンドラーの右側に来る。

4)ハンドラーは左脚を前に一歩踏み出す。

5)犬は、ハンドラーの右脚の前を通り、右脚と左脚の間に出来た空間をすり抜け、ハンドラーの左側に来る。

これをシームレスに繰り返し、段々前進して行くわけです。

幸が初めてこれをした時に、食べ物を手に持って誘導してみました。まず、私の右脚が前に出ているので、右手の中に隠したトリートを幸の鼻先に突き付けて、それを左脚の前から右脚のふくらはぎの辺に抜けるように動かしてみました。幸は私の手の中にトリートがあることがわかったので、当然それを追い掛けます。私の手が動く方向に付いて来ますが、トリートを追い掛けているだけです。そのことに集中しているため、私が手を空中に持ち上げれば、おそらくジャンプしたと思います。これは、「餌に釣られて」という状態で、一回だけその行動を期待するならいいかもしれませんが、定着させようと思うなら、効果的な方法ではありません。

次にクリック&トリートでしてみました。幸はまだ私が何をして欲しいのか分からない段階なので、幸の行動を見ていて、私が期待するものの要素が少しでも入っていれば、それをマークしていきます。最初は一回潜ったらクリック、それができるようになったら、それをチェーンのように繋いで行って、ゴールに到着した時だけクリック、というように、期待するものを高めていきます。このアクティビティは、身体的・精神的にそれほどチャレンジングなもの、というわけではないので、すぐにできるようになりました。

食べ物を「賄賂」として使っている場合、犬は賄賂に釣られて行動しているだけですから、まず行動が定着しにくい、そして賄賂がなければその行動をしないと思います。上記のアクティビティのように、できなくても別に実生活に支障を来さないようなものは構いませんが、基本コマンドを教える場合には、やはり食べ物を賄賂として使うべきではないと思います。食べ物がなければ、「座れ」もできない犬になってしまっては、困りますからね。