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Introduction

幸を迎えるまで

◆柴犬を飼うことになったきっかけ

幸を迎える前の何年間かずっと犬を飼いたいと思っていて、「犬を飼うなら絶対に柴犬」と決めていました。なぜかわかりませんが、私には柴犬が「犬らしい犬」の典型なのです。人間のいろいろな目的の為に手を加えられた犬と比べると、柴犬は原始的な犬の姿を保っていると思います。それに、大きさも手ごろです。ゴールデン・リトリーバーも気質的には好きなのですが、以前知人の86ポンドあるイエロー・ラブを散歩させたときに、なぜかその犬が急に走り出して引きずられた経験があるため、自分で飼うなら大型犬は無理だと思いました。

日本では最も一般的な柴犬ですが、日本の犬というと秋田犬を思い出すアメリカでは、柴犬はまだまだ珍しい犬種だと言えかもしれません。AKC(アメリカン・ケンネル・クラブ)に認められたのも、秋田犬の1973年に20年も遅れ1993年のことでした。そんなアメリカで柴犬のブリーダーを探すのは、至難の業だと半分諦めていました。しかし、ある日柴犬関連のメーリング・リストの存在を知り、柴犬に興味を持っている人が日本以外にも多くいることが分かりました。アメリカで柴犬を手に入れることが全く無理ではないということが分かったので、AKCに連絡してブリーダーのリストをもらったり、インターネットで調べたりして、コンタクトしてみたいブリーダーのリストを作りました。そのブリーダーは、実際に犬舎を見に行ける距離にあることが第一の条件でした。

そのリストのブリーダーすべてに電話で連絡をし、まずもうすぐ親元を離しても大丈夫な年齢に達した小犬がいるかどうか聞いてみました。こちらから出した条件としては、雌で毛色は赤、ショー・クオリティでなくてもかまわないが血統のいい健康な仔犬ということでした。リストのブリーダーの一つに条件に合う所があり、週末を利用してそこに行ってみました。そこはハスキーと柴犬のブリーダーとしてかなり有名なところでしたが、私の柴犬の仔犬を見る目がまだ肥えていなく、何を基準に決めたらいいか判断しかねたので、その日は見ただけで帰ってきました。

その後上記のメーリングリストで、メイン州のあるブリーダーの所に生後9週間になる仔犬がいるということを知りました。すぐにそのブリーダーに連絡して、どんな仔犬が何匹いて血統や健康状態はどうか、など詳しく聞きました。そして次の週末に仔犬達を見に行く約束をしました。

◆幸に初めて会う

メイン州は私が住んでいる州の隣の州なので油断していたのですが、何しろ広いアメリカのこと。家からそのブリーダーの所まで高速を70マイルで走り続けて車で片道約8時間もかかりました。文字通り野を越え山を越え、海まで見てやっとそのお宅にたどり着き、ドアを開けると大小6頭の柴犬が「何だ、誰だ???」という感じで駆け寄って来たのにはびっくりしました。このブリーダーは、柴犬を本当に大切に育てています。4頭の仔犬達のお産は彼女のお宅の居間の片隅で行われ、仔犬は生まれてからはずっとそこで、まるで家族の一員であるかのように育てられていました。

ブリーダーに話を聞きながら、仔犬達4頭とその両親を見せてもらいました。最初はどれもちょろちょろ動いていて、個体の区別がつきにくかったのですが、しばらく見ているとそれぞれ特徴があり、どれがどれかわかるようになってきました。姉妹なので体の大きさはだいたい同じで、毛色は両親がどちらも赤なので仔犬達も皆赤でしたが、ちょっと色の薄いのがいたり、足の先に白い毛があってソックスを履いているように見えるのがいたり、性格的にも内気そうなのや反対に勝ち気そうなのもいました。ブリーダーは「この子は、こんな子で...」というように1匹づつの性格なんかを説明します。仔犬を一匹づつチェックし(元気そうか、歩き方がおかしくないか、触られることに異常に抵抗を示さないか、など基本的なこと)、それぞれと一緒に遊んだり観察したりしました。お母さん犬のミッシーは、突然知らない人がやって来て自分の子をいじりまわしていたので、心配になったのか私の側を離れず、「大切な子なんだから、丁寧に扱ってね」と私の一挙一動を監視しているようでした。

どれもかわいくて、できれば全部連れて帰りたいほどでしたが、1時間半ぐらいかかってやっと一匹にしぼりました。それが幸です。幸は4頭の中でも元気そうに遊んでいて、興味深く「この人誰?」という感じで私の膝に乗ってきたり、今まで走り回っていたなと思ったら次の瞬間には寝ていたり、仔犬らしい仔犬だという感じがしました。

その時点で仔犬達は生後約10週間になっていて、親犬から離しても大丈夫な時期だったので、すぐにでも連れて帰りたかったのですが、その次の週に私が出張することになっていたため、ブリーダーにお願いしてもう2週間預かってもらうことにしました。その時に引き取って、出張中ケンネルに預けることも考えたのですが、何しろ仔犬ですし、環境が変わると体にも負担がかかるかもしれないので、慣れているところにいた方がいいだろうと思い、無理をお願いしました。

◆幸を迎えるまで

「やっと手に入ったものが手元にない」というような感じで、それから幸を引き取りに行くまでの2週間は本当に長く感じられました。その反面、その2週間は幸を迎えるためのいろいろな準備で、忙しかったのも覚えています。まず、名前を決めなければなりませんでした。日本の犬だから日本の名前にしようと思い、いくつか好きな言葉を書き出してみました。言葉の意味はもちろん大切ですが音も重要で、「短くて歯切れがいい子音が入っていて、犬自身が聞こえやすいもの」にすることにしました。これは、犬が自分の名前を識別しやすいようにという配慮でもありましたが、もう一つには日本語が母国語でない人にも聞きやすくて発音しやすく、誰にでもちゃんと呼んでもらえるように、ということを考えたためです。いくつかあった候補の中から以上の条件をすべて満たすものが「幸」で、これに決めました。

名前が決まるとすぐにブリーダーに連絡しました。仔犬にはそれぞれブリーダーが付けた仮の名前があったのですが、彼女は「じゃ、今日から「幸」と呼ぶことにするわ」と言ってくれました。そして彼女に幸を引き取りに行くときに持って行ったほうがいいものを聞いて、リストを作りました。ついでに仔犬を家に迎えるにあたって用意しておいた方がいいもの、今まで彼女が与えていた市販のドライフードのの名前と一日に与える分量の目安なども聞きました。その2週間の準備期間には、毎日のようにキムさんとメールで連絡を取り合っていました。「今日は幸がこんなことをした」という報告を受けて、離れて住んでいる仔犬に対する愛情がどんどん湧いてきました。

◆幸を迎えるにあたって用意したもの

幸を迎えるにあたって用意したのは以下のような物です。

クレート:プラスチック製の箱で、入り口に鉄製のドア、両脇には窓が付いているものです。サイズはいろいろありますが、犬が中で立てるような高さで、奥行きは犬が伸びができるぐらいのものが最適とされています。あまり大きすぎると、仔犬は安心できないそうです。柴犬の雌の成犬の大きさを考えて、幸にはVali Kennel社の中型を買いました。クレートの中に敷くためのクッションなども売っていますが、小犬のうちはトイレが我慢できなくてクレートの中でしてしまう可能性もあると考えて(犬は自分の寝場所を汚さないようになるべく我慢するものですが)、洗濯が簡単にできて清潔な状態が常に保てるように、バスタオルを何枚も用意しました。実は今でも幸のクレートにはバスタオルやキルティング地の私が作ったものを敷いています。それを毎週きれいなものと取り替えます。幸は寝相が悪いのか夜中にクレートの中で暴れているのかわかりませんが、時々バスタオルや敷物が丸まって片隅に追いやられ、幸は直接プラスチックの上に寝ていることもありますが、たいして本人は気にしていないみたいです。

首輪とリード:5/8インチ幅の首輪とリードを用意しました。首輪の方はプラスチックの留め金が付いていてワンタッチで装着できるもので、仔犬の成長に従って大きさの調節も可能です。リードは4フィートの長さのもので、これも首輪の金具にワンタッチで装着できるようになっています。皮製よりもナイロン製の方が小犬の首に早くなじむだろうし、汚れたら簡単に洗濯もできるという理由から、ナイロン製のを選びました。

食器:食べ物用と水用の二つを用意しました。軽いものだと食べているうちに移動して食べにくいので、陶器のにしました。水用の方には常に水を満たしておいて、幸がいつでも飲めるようにしてあります。朝と晩に水を取り替えます。

小犬用ドッグフード:ブリーダー宅で食べていた物を取りあえず与える方針で、そのドライフードの名前を教えてもらって用意しました。

おもちゃ:幸がどんなおもちゃが好きなのかわからなかったので、とりあえず違ったタイプのものを三つ用意しました。熊の形をしたぬいぐるみで中にスクイーカーが入っているもの(押すとキューキュー鳴る)、ゴム製の噛るためのもの、引っぱって遊ぶ為のロープのおもちゃです。家に来た当時、幸は上記のどのおもちゃでも遊びましたが、熊形(スパッド)のおもちゃは特に気に入ったようで、昼はおもちゃに夜は枕にという具合に活躍しました。今でも幸はこの熊形のおもちゃを持っていて(初代は引退して2代目です)、小犬の時と同じように愛用しています。

迷子札:名前が決まったので、早速注文しました。幸の名前と飼い主の住所、電話番号が書いてあります。金属製で骨の形をしたもので、注文してからできるまでに1週間ぐらいかかりました。

その他:家の中の点検をしました。仔犬の前足/鼻が届く高さに危険なものがないか確認しました。植物はすべて棚の上などに移し、鼻で開けられそうな台所の戸棚などは開かないように止め具をつけて、噛られたら困るような本は本だなの上の方に移動しました。それから、一階が犬の居場所と決めたので、二階に上がる階段の所にベビー・ゲートを取り付けました。その他には、幸のクレートを置く場所を決めたり、幸の「食堂」(台所の隅)を決めたりしました。