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Introduction

幸を迎えて

◆幸を引き取りに行く

1998年12月22日、いよいよ幸をブリーダーのキムさんのお宅に引き取りに行く日。幸はこの時ちょうど生後12週間になっていました。高速道路を時速70マイル以上でとばしても、片道8時間のドライブです。この日は早朝に家を出ましたが、朝から雪がちらついたりしていました。幸は8時間も車に乗ったことがないと聞いていたので、最悪な状況を予想して私は汚れてもいい服装をし、新聞紙、ペーパータオルなどを用意しました。その他にはボトル入の水と、水を飲ませるための容器、おもちゃなども持っていきました。それからブリーダーに持ってきたほうがいいと言われたもの(クレート、首輪、リード)を車に詰め込みました。

ブリーダーの所に着くと、2週間前と同じように大小6頭の柴犬が迎えてくれました。2週間の間に仔犬達はさらに成長したようです。幸のしていた仔犬用の青い首輪をはずし、用意していったものをつけました。ブリーダーが「やっぱり行ってしまうのね」とちょっと感傷的になっていましたが、彼女の気持ちは十分理解できました。3ヵ月間も自分の子供のように大切に育てた仔犬の一匹が、彼女の元を去ろうとしているのですから。それに、幸の新しい家はそんなに簡単に会いに行ける距離にはありません。その上幸は4頭の仔犬の中で初めて生家を出る子で、ブリーダーは仔犬を手放すことに慣れていなかったのでしょう。大切に育てます、と約束してキムさんのお宅を後にしました。

幸は車に乗せられても状況が把握できていなかったようですが、ブリーダーや両親犬、姉妹犬からどうやら離れていくみたいだということは分かったようで、車が走り出してしばらく後部座席に立ち、後のガラスにへばりついて外を見ながら鼻をク〜ンク〜ン鳴らしていました。しばらくしたらそれにも飽きて、疲れたのか座席の上に座っておとなしくしていましたが、そのうちなんだか様子がおかしくなり、用意した新聞などを広げる暇もなく吐いてしまいました。それは8時間の旅のまだ始めの方でしたが、その後はほとんどクレートの中に入ってその中で寝ていました。途中雪が降って来ましたが、積雪量はたいしたことがなく、運転を続けることができました。

◆幸の新しい家

途中何度か休憩を取り、雪が降っていたため慎重に運転したので、いつもより時間がかかり、家に着いた時にはもう夜中になっていました。まずクレートを決めてあった場所に置いて、そこが幸のベッドであることを教えました。それから水用の器が置いてあるところに連れて行って、そこに食べ物も置きました。生活の基本的なものがどこにあるか教えたわけです。トイレは裏庭の隅を使うことにしていたのですが、その日はもう必要なさそうだったので、連れていきませんでした。往復16時間以上の雪の中の運転で私もかなり疲れていたので、その晩は記念に何枚か幸の写真を取りましたがそれ以外は特に何もせず、幸をクレートに入れてドアを閉めて私も寝ました。

次の朝5時頃に、階下がなんだか騒がしいので目が覚めて、何が起こっているのか見に行くと、クレートに入っているはずの幸が二階に上がる階段の所に取り付けてあったベビーゲートのところに飛びついて、鳴いているではありませんか。何が起こったのかわからず、とりあえずクレートを見に行くと、ドアがはずれて屋根の部分が取れてしまっていました。クレートは上下の二つの部分からなっているのですが、その重なる部分をネジで留めて固定するわけです。ネジをしめなくても上下が底と蓋のようになっていてわりと安定しているので、「今晩はこれでも大丈夫」と勝手に思い込んだ私の大きなミスでした。幸い幸は怪我もしなかったし粗相もしていませんでしたが、トイレに行きたくなったためクレートをぶちやぶり、私が寝ている気配のする二階に向かって鳴いていたわけです。目が覚めたら全然知らないところにいて、トイレに行きたいのにどこかわからないし、人も見当たらないし。不安だったでしょうねぇ。

やはり長旅の疲れが出たんでしょうか。その日幸はお腹の具合が悪くて、何度も外に行きたがりました。教えたわけではないのですが、トイレに行く必要があるときには、玄関のドアに飛びついて鳴いて知らせてくれたので助かりました。この日は何度かトイレを兼ねた散歩に連れて行きましたが、それ以外は幸はほとんど寝ていました。

◆幸の夜泣き事件

幸が家に来た三日後はクリスマスで、友人宅に晩御飯によばれていたため、幸はお留守番でした。幸をクレートに入れて出かけました。晩御飯だから3時間ぐらいだろうと高を括っていたのですが、長引いて結局5時間ほど留守にしてしまいました。帰って来てすぐに幸を散歩に連れて行って、そんなに機嫌が悪そうでもなかったので、少し一緒に遊んでまたクレートに入れて寝かせました。しかし、夜中の12時過ぎになぜか鳴きだし、最初は「ク〜ン、ク〜ン」程度だったのですがそのうち叫ぶというか、まるで文句を言っているような、ものすごい鳴き方になりました。体の具合が悪いのかと思いチェックしたりしたのですが、そうでもないらしく、ただ鳴きたいから鳴いているというような様子でした。夜鳴きした時にかまってやって癖になると困ると思い、3時間ぐらい我慢したのですが、夜中の3時半になってもまだ叫んでいるので、しかたがなく階下に様子を見に行きました。もうその頃には叫ぶ声もかすれてしまって、随分体力も消耗していたようです。前足でクレートの入り口のドアをガリガリやるのもしんどいという感じでした。しばらく様子を見て、気休めに子守歌を歌い(私も疲れてフラフラだったので、寝るためには何でもしました)、だいたい落ち着いてきたときにはもう4時半を過ぎていました。

次の日はクリスマス明けの土曜日で、診てもらえるか心配だったのですが、とりあえず午前中に獣医に電話をかけました。前の晩の幸の様子を説明し、何も悪い所がないか一応診てもらうことにしました。それと狂犬病の注射を済ませないと市に登録ができないので、それもしてもらうことにしました。結局悪いところもなかったのですが、環境が変わったのでおそらくストレスがたまっているんだろう、ということでした。

この夜泣き事件は、今だに原因がわかりません。その後あの時のように鳴いたこともないし、いったい何が気に入らなかったんでしょうかね。