幸の不妊手術

幸の不妊手術のことは記録に残しておきたいので、今日はそのことについて書いてみたいと思います。実は手術のすぐ後で詳しいことを記録しておいたのですが、コンピューターの調子が悪くなったときにその文書もなくなってしまいました。これから書くことは別の大まかな記録を基にしているので、詳細については記憶に頼るしかなく正確さに欠けるところがあるかもしれません。それでもアメリカと日本では不妊手術に対する考え方などいろいろな違いがあると思うので、参考になればと思い書くことにしました。
私が知っている範囲では、アメリカではペットとして犬を飼うなら不妊手術(去勢/避妊手術)をする人が大半だと思います。もちろん手術は手術ですから犬の体に負担がかかり、しなくてもいいものならその方がいいのかもしれません。しかし、計画していなかったのに妊娠してしまった場合、その面倒を見切れなかったり里親が見つからなかったりでHumane Societyなどに送られる犬の数をこれ以上増やさないためにも、獣医も不妊手術を奨励します。実際に、幸が生後6ヵ月になった頃にかかりつけの獣医から「そろそろ手術をするのに適当な年齢になりましたが、どうなさいますか」というような打診の葉書が来ました。たいてい不妊手術は生後6ヵ月以上でなるべく早いうちに行われます。それ以前にはまだ体が小さいので麻酔が体に負担をかけ過ぎることもあるため、ある程度成長してからすることになっているそうです。反対にもう不妊手術をすることに決めているなら、成犬になる前に行うことを奨励しているようです。
幸に避妊手術を受けさせるかどうか決める前に、いろいろな本などを読んだり、犬を飼っている知人に話を聞いたりして情報を収集しました。幸をブリーディングに使うことは最初から考えていなかったので、その点では迷いはありませんでしたが、手術をしたことにより体に何か悪い影響が出ることはないか、幸は室内犬なので年に二回の発情期さえ気をつければ手術をしなくても間違って仔犬が生まれることはないのではないか、など様々な疑問があったためです。それで、手術を受けさせる「いい点」と「悪い点」を列挙してみました。次のチャートがそれです。
いい点 |
悪い点 |
| 予定外の妊娠の可能性がなくなる。 |
手術であるから、多少なりとも体に負担がかかる。 |
| 生殖器官を取り除くわけだから、卵巣などに発生しやすい雌特有の病気の予防になる。 |
手術中や麻酔時に事故が起こる可能性が全くないとは言えない。 |
| 年に二回の発情を心配する必要がなくなる。 |
自然の摂理に逆らっているのでは。 |
| 近所に犬が多く半放し飼い状態の犬もかなりいるので、避妊手術を受けておいたほうが安心。 |
生殖器官を取り除くことによって、後々体への悪影響は全くないものか。 |
| 不妊手術を受けた犬は寿命が延びると言われている(生殖器官に発生しやすい病気にならなくなるため、が理由の一つ)。 |
避妊手術を受けた犬は、ホルモンのバランスの関係で太りやすくなると言われている。 |
このように「いい点」と「悪い点」についてそれぞれよく考えてみた結果、やはり不妊手術を受けさせた方がいいのではないかという結論に達しました。手術の技術や処置に関しては獣医を信用するしかないのですが、生殖器官を取り除くことによっての後々の体への影響は特に問題にならないようですし、太りやすくなることは食生活と運動に気を付ければ避けられるでしょう。自然の摂理に逆らっているかどうかという点ではやはり疑問が残りましたが、最終的にはそれに対しても自分なりに納得しました。
犬の最初の発情は犬種(小型犬は大型犬に比べると早いそうです)や個体によっても違うそうですが、だいたい生後6ヵ月から9ヵ月ぐらいの間、遅くても一歳半までにはあるそうです。発情期には出血のこともあり手術をしない方がいいということなので、なるべく最初の発情が来る前にお願いしようと思いました。最終的に手術を受けさせることを決めたのは3月の終り頃でしたから、幸はすでに生後6ヵ月になっていました。年齢的にはいつ発情があってもおかしくなかったわけです。それで幸のブリーダーのお宅にまだ幸の姉妹のタンタエとタイがいたので、彼女に連絡を取りこの二匹の発情はまだか、発情期に入る前に何か「前触れ」のようなサインはあるかなどについて聞いてみました。発情期が近くなると目に見える体の変化の他に、外へ行きたがる、電柱などの臭いを普段よりも嗅ぎたがる、落ち着きがなくなる、というような状態になることをブリーダーは経験から教えてくれました。実はその中にすでに幸が始めていたことがいくつかあり、手術をするなら早目にしたほうがよさそうだと思いました。
幸はその頃散歩に連れて行くと、電柱の一本一本、木の一本一本の臭いを嗅ぎたがり、今までそのようなことがなかったので、なぜ急に臭いを嗅ぐことに執着し始めたのか、疑問に思っていました。気がついた幸の行動の変化などを獣医に説明すると、それは発情が近づいているためで、手術をするならなるべく早くしたほうがいいだろうと言われました。
手術は1999年4月14日に行われました。事前に獣医からの注意が何点かあり、牝の不妊手術はお腹を切るので丸一日入院が必要だということ、麻酔をするので胃の中を空っぽに近い状態にしておく必要があり、前日の夜8時以降は絶食させることなどでした。手術当日、獣医に言われたようにトイレを済ませ、午前8時半頃に幸を獣医の所に連れていきました。午前中に血液検査や手術の準備などがあり、実際の手術は午後1時から行われるということでした。手術後麻酔が切れた頃に電話をしてください、ということだったので「わかりました。お願いします」と言って幸を預けました。
幸のかかりつけの獣医は経験もあるし、こういうことは専門家を信用してお任せするしかないと頭ではわかっていても、その日一日は心配で心配で仕事をしていてもうわの空でした。午後4時になるのを待って電話をかけてみると、血液検査は異常なし、手術もうまくいって麻酔が切れてきたが、まだ朦朧として状況判断ができていない様子だという報告を受けました。そして、その晩は宿直の担当医が様子を見ているので安心するようにと言われました。
次の日、午後4時頃に幸を迎えに行きました。傷を痛がっていないか、食欲はあるかなど随分心配してたのですが、看護婦(?)に抱かれて近づいてきた幸は私の顔を見るなり彼女の腕の中で暴れ出し、下に降ろしてもらうと私の方へ猛スピードで走ってきて私に飛びつき「どこに行っていたの?変なことがたくさんあったのよ。」と言っているようにいろいろな声を出して何かを訴えているようでした。前の日にお腹を切ったばかりで安静にしていなければいけないので、その様子を見た看護婦はびっくりしてしまいました。私も「わかった、わかった、落ち着いて」と繰り返し、幸がそれ以上暴れないように取り押さえました。その後支払を済ませ、獣医からいろいろ術後の注意を受け、まだ興奮している幸を抱いて車に乗せ帰路につきました。
手術にかかった費用は以下の通りです。不妊手術自体は平均100ドル前後だということですが、州によって違うかもしれません(単位は米ドル)。
| 麻酔 |
$18.00 |
| 血液検査 |
$ 20.00 |
| 避妊手術 |
$ 85.00 |
| 抗生物質投与 |
無料 |
| 入院費(一日) |
無料 |
| エリザベスカラー(使い捨て) |
$ 5.50 |
| 合計 |
$ 128.50.00 |
術後の注意には以下のようなものがありました。
1)10日間は犬の行動を規制するように。犬はリード付で散歩をさせ、勝手に走り回ることなどがないように監視すること。
2)切開部の赤みが増したりジクジクしていないか注意する。何か問題がある場合にはすぐに獣医に連絡を取るように。
3)10日後に抜糸をするので、予約をするように。
3番に関してですが、これは記憶にありません。傷口の写真を見ても5日目には治癒に近い状態になっていたので、多分抜糸が必要ない縫合糸が使われたのでしょう。縫合部は2センチ弱で、手術の翌日でもわりときれいでした。それだけ切るのにも「毛剃り」はかなり大胆にやるようで、写真を見ていただければわかると思いますが、おへその随分上の胸の近くまで刈られていました。この毛がなかなか生えてこなくて、「お腹ツルツル」が治るのに手術後4ヵ月ぐらいかかりました。
幸を連れて家に帰ると、幸は自分のおもちゃが置いてある所に行ったり、家の中に変化がなかったか一通りチェックし気が済んだようです。しかし、困ったことが起きました。首の回りにはめられていたエリザベス・カラーです。これは犬が傷口を舐めすぎて開けてしまったりしないために着けられていたものですが、結構大きな問題になりました。
まず幸はそれまでに首の回りにそんなものをはめられたことがなかったので、戸惑ってしまいました。感覚がつかめなくなってしまったようです。普通歩いていて頭をぶつけるということは稀ですが、このカラーのせいである一定の方向しか見えなかったため、慣れるまではしょっちゅういろいろなところにぶつかって、その度に「ボコッ」という音がしていました。それから、自分の体を舐めてきれいにするという行為も阻まれました。カラーのせいでいくら体を曲げても口が体に届かなかったようです。後は入り口にカラーがぶつかるのが怖かったのか、自分の城であるクレートにも最初は入りませんでした。挙げればきりがないのですが、一番困ったのは食べられない、寝られない、遊べないの三重苦だったと思います。食べるのもカラーがつかえてダメ、寝るのも楽な姿勢が取れなくてダメ、カラーが邪魔で遊ぶのもダメ...。かなりストレスがたまったと思います。幸が困ったのは家の中だけではありませんでした。外に行っても後が見えないので常にビクビクしていて、本当にかわいそうでした。
そんな状態が2、3日続いたのですが、4日目頃になると幸はいろいろなことをボイコットし始めました。まずは食べない。行動が規制されていたので運動量が減ったせいもあり、食欲がなくなりました。食べたくなさそうでも手にドッグフードを乗せて少しずつ食べさせたりしましたが、いつもの半分ほどしか食べなくなりました。次に歩かない。ビクビクしてしてばかりで我慢できなくなったのか、外に連れて行ってもすぐに座ってしまって動かなくなりました。初めは手術のせいかと思って幸が歩かなくなる度に抱いたりしましたが、傷も治ってきているようだし家の中は普通に歩いているし、これはやはりボイコットだったような気がします。道の真ん中で座り込んで動かない幸を脅したりすかしたりして(!)歩かせる方向に持っていきましたが、回りの人は怪訝そうな顔で私を見ていました。「もしかして動物虐待?」とんでもない!それから階段を降りるのもそれまでは平気でしていたのですが、カラー付では怖いらしくこれも拒否するようになりました。急な階段だけは方向感覚を失って転げ落ちると困るのでちょっと甘やかして抱いて降りましたが、階段を降りる度にこれでは困るので、徐々に慣らしていきました。
こんな状態がもう何日か続き、食欲減退のため幸は痩せてしまいました。このエリザベスカラーは一週間着けていることになっていたのですが、首が細くなっていたんでしょうか、5日目に突然スルリと抜けてしまったんです。脱げてしまったものをまた着けることもないので、それで幸の「エリザベス・カラー苦」は終わりました。
それからは、今までのように生活を始めました。運動もこの頃にはわりと自由にさせていたので、食欲も戻り体重も手術前と変わらないほどになりました。
あれから約一年。少なくとも今までは、不妊手術を受けたことによる悪影響は全く見られません。手術の為に幸の性格が変わったとも思いませんし、体の方もいたって健康です。太りやすくなるということでしたが、手術当時と比べると3ポンド増えただけで(手術当時は約17ポンド、現在約20ポンド)、これはホルモンのためというより成長の為だと考えられます。
犬の不妊手術に対する考え方は人それぞれ違うと思いますが、私の場合はいろいろ調べ考えて納得した結果決めたことなので、これでよかったと思っています。ですから、不妊手術を勧めることもその反対もできませんが、どちらの場合でもよく考えて納得した上で判断するのがベストだと思います。
避妊手術に関する写真はPhoto Galleryの「幸の不妊手術」を御覧ください。
【写真】一晩入院して家に帰って来てからすぐの幸。エリザベス・カラーに慣れず、お腹の辺も変で、ずっと座ったままでした。